トップへ戻る
「映画レビュー」インデックスへ戻る
雨に唄えば

公開年 監督 主演
1952 ジーン・ケリー ジーン・ケリー

 見ていて幸せな気分になる、というのは、こういうものを言うのだろう。
 この映画が「ミュージカル映画」の傑作という振れ込みは聞いてはいた。しかし、ついつい先入観というものが働いて、今までまったくこの手の映画は避けてきていたのだ。「ストーリーの合間にいきなり歌い出されても困ってしまうだろう」と。
 しかし、この映画見て考えが変わった。ハリウッドが舞台という事もあるのだろうが、ミュージカル(歌って踊る)パートがちっとも作品の中で浮いてない。むしろ、そこでの踊りに思わず見入ってしまうことの方が多いのだ。小気味良いコミカルな動きはまさに「エンタテイメント」を体現しており、素晴らしいものだった。

 ストーリー的には、たいした話じゃない。無声映画からトーキー映画へと変化していく時代を舞台に、あるハリウッドスターと、一人のダンサーの恋を描いた物語。でも、分かりやすい話であるが故にストーリーに変に気持ちを囚われることなく、踊りと歌を楽しむことができたのだ。
 基本的に話はコメディ。思わず、クスリと笑わせるシーンが幾つもあった。特に、コズモの「笑わせよう」っていう歌のところは良かったな。あれは、歌や踊りの楽しさだけでなく、コズモというキャラクターをも良く表した出色の出来栄えだった。
 笑えるシーンといえば、主人公であるドンがはじめて挑戦したトーキー映画の試写会でのトラブル続出も笑えたな。実際のところ、トーキーが出始めた頃ってどんな感じだったのだろう?マイクが変な音を拾ってしまってたり、音声と映像のタイミングがずれたり、という事は結構ありそうなことだ。ま、この映画で描かれているほどに喜劇的じゃなかったにせよ。
 今は映像に合わせて音声が流れるなんて当たり前だけど、この物語の中では、初めてトーキー映画を見た人の一人が「気持ち悪い」というようなことを言う。実際そうだったのかもしれないなぁ。画面にあわせて声が出るってのは、それを知らなかった人にとっては無気味に見えるかもしれない。

 閑話休題。この映画は歌や踊りも素晴らしいものだが、登場人物たちのキャラクターもそれに負けず劣らず魅力的。僕が一番気に入ったのは主人公ドンの親友コズモ。ドンが落ち込んだ時は陽気に励ましてくれるし、ライバル映画に対抗するための作戦を練るときには素晴らしいアイデアを連発する。ドンとキャシーが二人の世界に入ってしまっても、すねることなくおどけて見せたりして嫌味なところが全然ない。彼がいるといないとでは、作品の評価はかなり変わっていただろう。キャシーもなかなかに魅力的だったし、リサは声やその態度がいかにも生意気な女ってカンジがプンプンしてて、これもこの映画には欠かせないキャラクターだったが、コズモの存在感は一歩抜け出ていた。
 一つ気になる点があるとすれば、中盤の終わりごろドンが「これがブロードウェイミュージカルです!」とかいって、いきなりそれまでのストーリーと何の関係もないミュージカルが挿入されるところ。見ててかなり違和感を感じた。それとも、ああいうシーンを入れるのが当時のミュージカル映画のお約束だったんだろうか?このシーン自体の出来は決してつまらないものではなく、ミュージカルとしては一級品だったと思うけれども。

 ま、幾つかのそういう気になる点があったにせよ、僕のミュージカル映画というものに対する偏見をすっきりなくしてくれるほど、娯楽性に満ちた傑作であるということは、躊躇なく言える。
 落ち込んだ時とかに見ると励ましてもらえそうな、そんな映画だ。